梅原猛(東洋大学 井上円了リーダー哲学塾 公開講座)

梅原先生は、ご自身のこれまでの哲学研究に言及されました。まず、デカルトの『方法序説』から多くのことを教えられたと述べられましたが、デカルトは、人間を自然世界と対立するものとして捉え、自然は無機質であって、数学的法則で解明されるものであり、自然は人間に従うものとしている、このような考え方から、自然科学と技術は発展し、それが文明を創り、人間に幸福をもたらしたが、しかし、今やそれが、環境(自然)破壊を引き起こし、人類の生存を脅かすほどになっていると、指摘されます。 また、哲学者、ニーチェとハイデッガーは、そのような文明を強く否定する思想を打ち出したが、結局、それも人間中心主義から離れることがないと説かれます。 梅原先生は、40歳ごろに西洋哲学の限界を知ったと語られました。逆に、東洋思想や日本思想に、人間中心主義を超える思想が隠れているのではないかと、日本研究を志されました。その結果として、天台本覚思想の「草木国土悉皆成仏」という言葉の中にこそ、日本文化を象徴する思想が込められていると考えるに至ったということです。 そして、この「草木国土悉皆成仏」の思想は、日本の基層文化である縄文文化(漁労採集文化)の根本思想であり、さらにその後の弥生文化(稲作文化)にも受け継がれていると指摘されます。 この自然と一体となる考え方は、西洋の人間中心主義の考え方とは大きく異なるものであり、梅原先生は、西洋文明の根本にある人間中心主義では人類は救われない、人類文明について、古く狩猟採集の時代にまでさかのぼって再考しなければならないと強く訴えられるのです。